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10月21日(土)東京タワー開業65周年記念!  ハーフムーンの天空に「東京のうた」の魂がライトアップする音楽会

東京ビエンナーレ2023のなかの異色プログラム、著述家・おしゃべりカルチャーモンスターである湯山玲子プロデュースによる「東京のうた」シリーズ。約1ヶ月半にわたり、東京各所で22通りのゲリラ音楽ライブを行う試みも、いよいよ折り返し地点。中盤にさしかかる10/21(土)、シリーズのハイライト的イベントが行われた。


舞台となるのは「東京タワー」。戦後のカルチャーを大きく司るテレビの電波塔として、高度経済成長のシンボルのように建設された東京アイコンのクラシック。その脚の中にすっぽり収まるように建つビル「フットタウン」の屋上が、今回のゲリラ会場だ。間近で四方に広がるオレンジ色の巨大なタワーの脚に囲まれ、上に上に高く連なる市松模様のような鉄鋼を不思議な臨場感で仰ぎ見るロケーション。


夕闇迫る17:30から3時間半、ここで“東京のうた”を選び歌うのは野宮真貴、タブレット純、男声合唱団、地下アイドル、現代アートアクティビスト等々……ことごとく誰一人キャラ+ジャンル被りがないというか、それぞれが独自の東京のスタンスを持つであろう6組。野宮がエッフェル塔の有名な例えになぞらえて曰く、「東京タワーのスカートの下」という表現もぴったりの、メジャーな場所のレア空間で6様の「東京のうた」が繰り広げられるのである。


東京の名の下、全てがレコードマエストロの

コモエスタ八重樫の手腕でソートされる辣腕ぶり


 まず、スタート時刻5:30PM丁度に会場に響き渡ったのは軽快なマンボのリズム。聴き進めていくと、それは「お江戸日本橋」のマンボバージョン。さらに「赤坂の夜は更けて」「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー」と、立て続けにマンボやラテンで素敵にアレンジされたムード歌謡ビッグバンド・インストが鳴り響く。「小西康陽氏曰く、世界初のラウンジDJ」(湯山)、コモエスタ八重樫のDJで幕開けである。


 活力溢れる西洋のリズムで日本の歌謡曲や民謡がインストとしてアレンジされ量産された昭和30年代の音楽ムーヴと東京タワーのマッチング。やがて“東京しばり”のスムーズプレイは歌モノに移行し、「東京ドドンパ娘」「二人の銀座」等々の国民的懐メロや初めて耳にする昭和歌謡まで、恋愛や希望溢れる舞台として随所に「東京」「銀座」「新宿」「赤坂」等々の名前が歌に織り込まれる。それにしても選曲の数々を聴きながら実感するのは、この昭和30年代ごろの歌のイントロの豊かさだ。


「イントロを飛ばして歌から聴く」という令和世代の音楽のあり方が話題になる昨今、いやいや、このイントロの持つロマン、歌に入るまでのフェロモンは格別である。などと、しみじみしているうち、「銀恋」「ウナセラディ東京」の現代カバーやフランク永井、渚ようこ版「モナムール東京」にサザンの「東京シャッフル」、銀座の祭りを歌う謎ムードコーラス(敏いとうとハッピー&ブルー「銀座八丁光のまつり」でした。調べました。笑)と、選曲は時代+ジャンル入り乱れてBPMも上がり、東京の名の下に全てがレコードマエストロの手腕でソートされる辣腕ぶり。最後は“銀座、原宿、六本木”で始まるダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「カッコマンブギ」で締め括られ、昭和歌謡曲のイントロ同様、ロマンとテンション溢れる、本イベント格別のイントロとなった。


現代美術担当?! 東京タワーC子の破壊と突破力

 と、そうこうしているうちに山手線の発車メロディとともに会場左手から何やら気配が。目を移すと電飾でタワー型に縁取られた赤と白のコンビのロングドレスに、盛大な巻き髪ロングヘアー。その頭上にはオーロラ輝子的東京タワーオブジェを乗せた、その名も東京タワーC子。柄付きタワシを王笏かムーンスティックのように携え、従えるはギャル風工事現場警備員の出立ちの女性サックス奏者。そのテナーサックスにのせ、C子は「かしこみーかしこみー」と祝詞パフォーマンスとともに「昭和33年、ここ東京タワーの建設現場に突然現れた幻の歌手、東京タワーC子です」と、さきほどまでのDJタイムを初っ端から一掃させるようなインパクト+摩訶不思議感。


 煙に巻かれる客席をよそに、先ほどから外見に反してやたらと上手いサックス演奏のバッキングの下、なにやらC子はタワシ職人の両親の下に生まれたという激動の素性を語りつつ「東京の青い空」や、高度経済成長からの生活習慣病増加を憂いながら「パイノパイノパイ」の替え歌を歌唱。果ては“そろそろ、世界タワー会議に出席する時間”と、オリジナル曲「夢見る東京タワーC子令和Ver.」で持ち時間を強行突破。謎の東京タワーC子の正体は、アートアクティビスト的活動を行うトースティー。バッキングはジャズサックスプレイヤーの纐纈雅代(上手いはず)。湯山曰く本イベントの「現代アート担当」という彼女たち。アートの名の下に回収される力技も含め、意味不明で最高のオープニングアクトになった。


ギリギリオンタイムで歌われた『東京は夜の7時』に

野宮真貴のエレガンスが光を放つ。

 さて、気付くと時間は7:00PM10分前。「若干、巻き気味で進行しています」とMCする湯山の本日のスペシャルな目論見は、夜7:00とともに次のアクトに“あの歌”を歌ってもらうこと。そこへ登場したのは野宮真貴。東京タワーと同色のオレンジのトレンチコートドレスにミニチュアタワーがあしらわれたベレー帽という、衆目の憧れと期待に寄り添うような都会のエレガンス。ご登場から一瞬にして、会場中の女子がうっとりする空気に包まれる。野宮が1曲目に選んだ東京の歌は、自身もカバーしたユーミン’81年の「手のひらの東京タワー」。東京タワーのエレベーターの中で、鉛筆削りの小さな東京タワーを恋人の手のひらに贈る女の子の歌。続いて「ロンドンの歌なんじゃない?と思うかもしれないけれど、こんな女の子は東京にしかいません!」と、「Twiggy Twiggy」。この日、開場時からウェルカム的に場に華を添えるドラアグクイーンのマダム・レジーヌとジャスミンとともにキメのダンスを披露。


そして、歌い終わりとともに時刻は6:59PMに。「59分!?」と野宮は叫びながら“それでは、世界一長い7:00の時報をお届けいたします”と始まったのが、「東京は夜の7時」。シリーズハイライトの本イベントの、さらにハイライトは、ピチカートファイブのMVでも舞台となった、ここ東京タワーで、野宮本人が「東京は夜の7時」をオンタイムで歌うという目論見。流れてきたのは、ハウジーなリズムと流れるようなピアノのピチカート・オリジナルVer.のイントロ。と、ともに、間髪入れず続く野宮の“東京は夜の7時!”の歌い出しは何度聴いても無条件に気持ちが上がる。ハイライトオブハイライトの成功に会場中の温度も上がり、「最高!」と会場中の拍手喝采を浴びながら安堵する野宮。「これは1993年の曲なのでちょうど30年前ですよね」のコメントに、オンタイムのリスナーが多いだろう客席から「えー!」と悲鳴のような声が上がる。


 ステージ後のトークで湯山はこの歌の歌詞の“待ち合わせのレストランはつぶれてなかった”の都市のリアルに言及。東京の街のスクラップ&ビルドしていく宿命を日常の原風景としてポップソングにし、そこから30年経てもなお瑞々しさを失わないピチカートの歌。スタンダードソングもこうしてビルドされ更新されていく。「東京って移り変わるけれど、海外から戻って来ると高速から東京タワーが見えたらほっとするんですよ。ずっと東京を見守ってくれているシンボル」と、野宮が不動の東京タワーへの思いを語り締め括った。


いらか会合唱団の、正調“合唱”として聴く、昭和歌謡の

ある種の正しさを感じるような歌唱パフォーマンス。


 さて、お次は「向こうに黒いおじさんたちがいます。どうぞこちらに」と湯山にいざなわれ、「いらか会合唱団」が登場。早大男声合唱団コール・フリューゲルのOBたちによって結成された、最年長70代という男声合唱団である。全員、黒の上下で合わせたこの日25名の“おじさんたち”の東京のうた。先ほど7時早々にハイライトを迎えた直後でありながら、この男声合唱パフォーマンスが不意をつくような聴きごたえだったのである。


 「TOKIO」「東京砂漠」「ウナ・セラ・ディ東京」「東京ラプソディ」の80年代、70年代、60年代、戦前と下っていく昭和流行歌、これらが25人の男声の生ハモリになって、スピーカーを通さず至近距離で直に耳に入り込む。“あなたの傍で、ああ、暮らせるならば辛くはないわ、この東京砂漠――”と、低音の野太い、推測還暦超えのハーモニーはウォール・オブ・サウンドの如く。ハモネプ系でもゴスペル系でもなく、正調“合唱”として聴く、昭和歌謡のある種の正しさを感じるような歌唱パフォーマンス。ラストのアップテンポの「東京ラプソディ」では、自然と観客がリズムをとりながら手拍子も起き、そんな日本の合唱の持つ親近性も印象に残った。

サエキけんぞうと主宰者・湯山玲子の東京のうた雑感


 時間は進んで夜8:00PM前。夜空に東京タワーのオレンジが一層映えるなか、イベントは後半戦突入前のトークタイムへ。壇上には’80年代から東京のテクノ・音楽シーンで活躍し続けてきたサエキけんぞうの姿。「1958年生まれで東京タワーと同い年」というサエキと、「東京タワーの二つ歳下」という主催者・湯山の「東京」をお題にした同世代対談。まずはサエキが「ウナ・セラ・ディ東京」の曲名について、もともと別題だったザ・ピーナッツの原曲を「カンツォーネのミルバがカバーして、このタイトルになった。やはり昔から外圧で日本は変わるんですよ」と、トリビアと世相を織り交ぜれば、湯山は「東京ラプソディー」の“夢のパラダイスよ”の歌詞に「今歌えば、もはやパラダイスでなくなった東京批判の歌」としつつ、いにしえの東京パラダイスの中心だった浅草の「浅草寺の裏手が今、面白い」と数珠繋ぎの話題を展開。はたまたサエキの出身地・千葉の各種施設名に“東京”と銘打たれてしまう不条理、東京のインバウンド客のタフな生態、ロキシー・ミュージックの「トーキョー・ジョー」のモデルになった音楽評論家等々……全方位情報強者の二人の話は尽きぬまま、次のアクトの時間へバトンタッチ。


地下アイドル出身、なんちゃらアイドルは、

『東京砂漠』のディストピア戦士だった!!


 ここから後半戦はさらにパラレルワールドに突入。

 登場したのは、あおはると御茶海マミの女の子二人による地下アイドルユニット「なんちゃらアイドル」。彼女たちが発表していたカーネーションズの名曲「夜の煙突」のカバーに心動かされた湯山が、急きょブッキングしたZ世代デュオ。出演者のなかでは最年少ゆえ、どんな「東京のうた」を選ぶのか興味湧くところに始まったのは、四つ打ちリズムに“虹の都、光の港、キネマの天地”と歌う二人。かの、映画「蒲田行進曲」の主題歌を、この日のために作ったというトラックで披露。会場は駆けつけたファンたちの声援で、あっという間に“地下”ならぬ東京タワーに届く’’天空”アイドルのパフォーマンス場へと早変わる。


続けて、 “はしごをのぼる途中で”を“東京タワーをのぼる途中で”に変えての「夜の煙突」(確かに名カバー!)。さらに白眉だったのが次のナンバー。先ほど、いらか会合唱団も歌った「東京砂漠」を彼女たちもチョイス。打ち込みでシティポップ風にグルービーにアレンジされ、いらか会では「あなたがいればつらくはないわ」の下りが耳に残る情念に対し、彼女たちは「陽はまた上る」のフレーズが耳に残る強さとしなやかさ。同じ東京砂漠を舞台に歌のヒロインの表情が変わる妙。後ろの方で「うわー、選曲被るなあ!」といらか会メンバーとおぼしき男性たちが思わず声をあげるが、同じ歌がパフォーマー=「詠み人」によって変幻する、これぞ本シリーズの真骨頂。“私が生まれてきた理由、それはオタクに出会うため!”と、自身のオリジナル「さよならオデッセイ」をラストに会場をフルに使って客席を駆ける二人は、東京タワー色の赤のコスチュームとも相まって、東京砂漠のディストピア戦士のようにも見えてくる。その未来をも感じさせるリアルタイムな角度に「こういう企画をやって本当によかった」と、主催者・湯山をもMCで唸らせた。


限られた時間で昭和文化の種類の数だけタマを打つ

タブレット純の恐るべきパフォーマンス


 さて、夕方から始まった本イベントもついに残すところ、あと1人に。フィナーレを飾るのは、タブレット純。お笑い芸人にして、ex.和田弘とマヒナスターズの最後のヴォーカリストとして知られる歌手。また、ムード歌謡コーラス諸々の歌謡曲は言うに及ばず、GS、日本のフォーク等々、その博識ぶりはレギュラーラジオでも織り込み済みという、昭和の情報が渋滞する多才な存在。白いスーツと黒髪ロン毛の出立ちで、ギターとお笑いネタのフリップを抱えて登場するなり、「トリが僕でがっかりしたんじゃないですかあ?」と挨拶する控えめな声。が、これに反する1曲目、ロスプリモスの「ラブユー東京」の低く力強く、会場中に通る美しい声たるや。ただただ聴き惚れてしまう、正調ムード歌謡歌唱の見事さ。


続いて、おなじみの大沢悠里、永六輔、伊東四郎等々、往年のラジオスターの形態模写を披露し、美輪明宏の声で「東京タワーのためならエーンヤコーラ!」と響き渡る声に、客席は感心するやらリラックスするやら即席演芸場ムードに。自身の持ち歌「東京パラダイス」、昨年公開された異形特撮映画『超伝合体ゴッドヒコザ』(河崎実監督)で、歌+作曲を担当したという主題歌「ゆけ!超伝合体ゴッドヒコザ」に続き、「有楽町で逢いましょう」「池袋の女」と弾き語り、“東京から故郷を思う歌です”と望郷歌謡の名曲「チャンチキおけさ」のあと、東京の男を愛した大阪の女の歌、やしきたかじんの「東京」でオーラス。限られた時間で昭和文化の種類の数だけタマを打つタブ純氏のパフォーマンス。間近で見ることができ、改めてその引き出しの多さと再現力に感服する。湯山が冒頭MCで「東京は世界一ご当地ソングが多く、特にムード歌謡は地名が盛り込まれた歌が特徴」と説明したことへのエビデンスとしても打ってつけのラストパフォーマンスであった。


雑多、粋、ノスタルジー、品、猥雑、憧れ、王道、未来。

東京タワーという場だからこそ再確認できた東京の懐

 

 約3時間半という長丁場ながら、スタートからラストまで、まったくもって飽きることのない6組6態の「東京のうた」。各ステージが始まるごとに、見事なまでに空気、風景がガラリと一変し続けた3時間半。そこにはパフォーマーの在り方、佇まいごとの東京の持つ深さ、広さ、活力があり、さらに思わず見上げるタワーの“高さ”も加わる。まさに本シリーズの「場×うた×歌手」の集大成のようなイベントだったのではないか。


これを実現させている湯山女史のエネルギーに感服する。東京タワー自体、時代が進むにつれて六本木ヒルズ、スカイツリー等に、その象徴の座はとって変わられつつも、久々に今回東京タワーを訪れ、最寄り駅を降りた途端に迫りくる発光オレンジの巨大鉄鋼物の姿には、時代を超えた無条件の高揚を覚える。実際、駅から続く道はタワーをバックに自撮りする老若男女、外国人観光客で躁状態に賑わう。雑多、粋、ノスタルジー、品、猥雑、憧れ、王道、未来と、さまざまな要素が、東京の数々の歌とともに織り重なった本イベント。それは、東京タワーという場だからこそ再確認できた東京の懐だったようにも思う。


text by 吉岡洋美 Hiromi Yoshioka

 

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