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11月3日(金・祝)東京のうた ダイアナ・エクストラバガンザ、ブイヤベース、エロチカ・バンブー×アマランスラウンジ 

 東京のご当地ソングをテーマに、東京のいわく付きの場所場所で22通りのライブを行う「東京のうた」シリーズ。2023年9/22のスタートから実に約1ヶ月半続いたシリーズも遂にこの日は22回目、つまり、ラストライブとなる。フィナーレを飾る会場は、渋谷・代官山のラウンジバー「アマランスラウンジ」。夜遊び好きの主宰・湯山が「夜の実家」と言うほど通い詰め、内装はデヴィッド・リンチ風、あのセレブ、芸能人も常連ともいう東京の不夜城。実は兼ねてから湯山に名前だけは幾度となく聞かされ、一度は覗いてみたいと思いつつも、夜遊び上級者が集うシャレオツ社交場必至のイメージに腰も引けてた場所。週末にはバーレスクやドラァグ・クイーンのショーが行われるという話も漏れ伝わり、ますます好奇心が掻き立てられていたところ、今回のプログラムはお店の常連ドラァグ・クイーンたちが「東京のうた」をモチーフにリップシンク(クチパク)パフォーマンスを繰り広げるという。ラストに相応しい東京リアルタイムの華麗な夜のドキュメントになりそうな気配。

 

 目指す「アマランスラウンジ」は渋谷と代官山の間、並木橋沿いの一見何の変哲もないビルの5階。ナビを頼りにビルに到着し、エレベーターに向かうと先に乗っていた男装の麗人に行先階数を訪ねられる。「5階」を告げると、「湯山さんのイベントですね。私も駆けつけたんですよ」と、出会い頭で御常連客らしきスマートなご対応。上質なパーティーって、いつもこうした段階から始まるのだ。さすが湯山のホーム。

 さて、階に到着し、待ち受けていたのはビルの外観からはうかがい知れないゴージャスな異空間。一面赤色の壁には鹿の剥製、天井にはシャンデリア。薄暗さと程よい狭さが赤い空間を一層ディープにし、まさにリンチ的ヴェルヴェット空間。壁際にレイアウトされたソファーとテーブルには女性客でひしめき合い、皆さん、この夜の空間に華やいでいるのがうかがえる。10/21の東京タワーの回でも会場を盛り上げたドラァグクイーンのマダム・レジーヌとジャスミンが、ここでもランドマークのようにデコラティブなコスチュームで店内のスペシャル感、夜のファンタジーを醸し出し、奥には小ぶりのステージが設えられる。既にゴージャスと猥雑のセッティングが絶妙だ。


 そこへ時刻は定刻、湯山が登場。「お待たせしました。お待たせしすぎたかもしれません」。もはや定形文と化した、かの挨拶で第一声。いよいよ漕ぎつけた千秋楽。会場が湯山の夜の実家だけに、リラックスムードと合わせて打ち上げ感さえ漂う。本シリーズに奔走した日々を「63歳で30代前半の働き」「モノ忘れとの戦い」と振り返りながら、今回のプログラムのリップシンクについて、「ゲイ・パフォーマンスの至宝ですよね。全身全霊で憧れの歌手になる、ゲイカルチャーオリジナルの至芸。これに近いものって、人形を操って魂を吹き込む文楽あたりしかないのでは」と。そして、このアマランスはこうしたパフォーマンスを日常的にプログラムに据えているだけでなく、バーレスク、ポールダンサーを育てる場にもなっているNY、パリにも例のないバーだという(海外にはレビュー専用の場は存在するが、日常的なバーの形式では珍しいらしい)。


 さて、いよいよ、今宵のパフォーマンスのスタートである。二部構成の一部一番手は暗黒舞踏を入り口に世界的バーレスクダンサーに上り詰めたという、その名もエロチカ・バンブー。実はこの日、インフルエンザで急遽出演NGとなったリップシンクのドリアン・ロロブリジータに代わっての緊急出演。店内には「赤坂の夜は更けて」の八代亜紀Ver.が鳴り響き、黒のドレスに黒の羽扇子姿で艶かしく登場。花道からステージに到着するや否や、八代のハスキーボイスに合わせてドレス、ストッキングを脱ぎ、扇子で巧みに裸体を隠す身のこなし、所作の芸術点の高さよ。その一挙手一投足に会場中が釘付けとなり、やがて、ボルテージが高まったところで曲は金井克子の「他人の関係」にスイッチング、とともに流れるようにヌードを披露。さすが、百戦錬磨で世界で踊り続ける彼女、目の前で観る文字通りの白いやわ肌に、のっけから会場中の淑女たちを興奮で包み、拍手喝采のなか「アハン、アハン」と古典的喘ぎ声を残しながらご退場。当日代打とは思えぬ堂々たるプロのステージである。


 のっけから夜の至近距離のヌードショー。ゴージャス空間に選曲は八代亜紀、金井克子という絶妙なアンビバレント感。この会場だからこそのショーを目の当たりにしている高揚感のなか、続くはいよいよドラァグクイーン、ブイヤベースのリップ・シンクの打順。ピンクのショートヘアーのウィッグと蛍光グリーンがベースのサイケデリックなミニワンピース姿に、なにやらプレゼン風のバインダーと指示棒を持っての登場。そこへ流れた曲は1964年の国産ミュージカル映画の傑作「君も出世できる」から、雪村いづみの「アメリカでは」。雪村扮する米国帰りの社長令嬢が社員に米国式合理性をコンコンと説明する名曲だ。これを“アメリカではビジネスは能率第一”の冒頭のセリフからクチパクし、雪村の生意気な役柄同様、挑戦的な目線でバインダーとポインターをハイテンションで操りながら歌をシンクロさせていく。元歌をさらにカリカチュア化させ、自分の歌にしてしまう技。なるほど、憧れの歌になりきるとはこういうことか。随所随所にミニワンピの中のショーツを豪快にのぞかせると思ったら、中からコーラのボトルが登場し、一気飲みで締めるというハレンチ感もお見事!

 さて、お次の登場はダイアナ・エクストラバガンザ。60’s風に頭を大きく盛ったブラウンのセミロングウイッグに、黒のミニワンピースと赤のネックレス+ベルトのヴォリューミーな姿がなんともチャーミング。リップシンクするのは「東京ブギウギ」の雪村いづみカバーVer.で、奇しくも雪村続き。先日の赤坂ニューはる・春駒ママの美空ひばりといい、この界隈での往年の三人娘人気の不動ぶりは凄い。そして、これまた自分の持ち歌のごとく表情、身のこなしも合わせてダイナミックにクチパクして会場を制圧する主演女優ぶり。後半にブレイクから英語歌詞に入るタイミングもジャストなシンクロぶりで、原曲のキメの部分を逃さず、ウィッグ同様盛って盛って見せ場にする演出は、なんというか爽快感さえあり、楽曲アレンジの粋なフェイドアウトとともに花道を帰る姿は神々しくもある。いやあ、人間、どれだけ堂々とできるのか、って話だよな。


 このリップシンク芸は「1曲1コスチューム」がデフォルト。二部のためのお着替え準備の間、湯山とマダム・レジーヌ、ジャスミンのトークタイムに。「ドラァグ・クイーンとは?」の湯山の問いにジャスミンは「性を遊んでしまえという」精神のもと、「男、女をひとまたぎにして、ヴィジュアルは化け物的に」と、ゴージャスで誇張的ヘアメイク、コスチュームの理由を説く。なるほど、お店に入るなり感じたファンタジーとの親和性も納得。湯山は、いみじくも自身が書いた著書「女装する女」になぞらえて「自分を女だと思っていないからこそ、想定した女のような格好をする」と話せば、マダム・レジーヌが「男らしさも女らしさもただの記号。だから皆さん、好きにやっちゃって楽しんで」と説得力溢れるキラーワードで締め、プログラムは第二部へ。


 第一部同様、二部もエロチカ・バンブーのヌードダンスショーでスタート。2ステージ目は、“はあ〜、踊り踊るならば、ちょいと”と「東京音頭」にのせて金の着物姿で登場。壇上に上がるといつしか曲は黒沢明とロスプリモスの「ラブユー東京」に変わり、歌に合わせてスルスルと着物を脱いでいくと、パープルのランジェリードレス姿に。 “いつまでもあたし、めそめそしないわ”のフレーズとともに、店内のスツール諸々を巧みに使って踊る姿に、都会の女のフェロモンが充満する個室を覗き見しているような不思議気分に。さらにドレスを脱いで羽のストールを体にはわせるなまめかしさ。この一連の流れ、さすが世界基準である。

 お次はリップシンクの2ターン目、今度は白いドレスにターバン姿もあでやかなダイアナ・エクストラバガンザから。湯山もフェイバリットの東京ソングとして公言している由紀さおりのアーバン歌謡「バビロン東京」をパフォーマンス。“星まで届くガラスのエレベーター、今夜もひとり女が昇ってくる”と都会のフェイクを生き抜く女を歌う由紀のつややかで軽やかな声。これを抑えめのフリでエレガンスにグイグイ見せていく貫禄に、うーむ、見入ってしまう。身も心も歌と一体化する存在感。かっこいいなあー。

 そして、フィナーレを飾るのは、鮮やかな紫の着物に、羽があしらわれたヘッドピースで華やかに登場したブイヤベース。“東京ブギウギでございますか? まあ、皆さま余程お好きなんですのね”と、笠置シヅ子ご本人とおぼしき声が聞こえたかと思ったら、今回2度目の「東京ブギウギ」を笠置シヅ子本人歌唱、リミックスVer.で。花道から全力疾走でステージに上がり、ハイテンションのリップシンクを披露。終始、はっちゃけつつも隙なく繰り広げられる圧巻のパフォーマンスで、フィナーレにふさわしいエネルギーを会場中が浴び、やんややんやの大喝采。ドラァグクイーンのお姉様方にチップ=おひねりの渡し方をお店のスタッフにレクチャーされる女性客はじめ、高揚感が溢れるなか、狂乱の一夜はおひらきとなった。


 それにしても実感するのは、選曲ひとつとっても一筋縄ではいかない楽曲を選び取るドラァグ・クイーンたちの審美眼、アンテナの貼り方、パフォーマンス力。元歌の持つ、ときにはマニアック感をフラットにもしていくエネルギーの強さ。彼ら、彼女らならではの独自アンセム曲が数多く誕生していくのも頷ける。

 そして、今回も心底感じたのは、本シリーズの女性客の多さだ(筆者が足を運んだ回に限られるものの)。アダルト層から若い世代まで、こうした特殊企画に貪欲に好奇心を持ち、足を運び、刺激され、大喜びできるパワー。この日も充実感に満ち満ちた表情でアマランスラウンジを後にする女性たちの姿に、たくましさ、頼もしさえ覚えてしまう。

 街の一角でこうして、リアルに何かが起きている。これぞ東京の等身大の姿。今日のショーの開始前、湯山が話した「“東京”とは何なのか」という今シリーズの主旨を思い起こす。曰く、今、アートフェスや演劇、映画等々のカルチャー系祭典の舞台は完全に地方都市がトレンドで、東京の名は企画段階でもハナから候補に挙がらない、いわゆるオワコンに進んでいると。「東京は明らかに地盤沈下しているなか、東京でのコンテンツとは一体何なのか。そういうときにこういうお店、場所こそが東京」(湯山)。このアマランスラウンジのように、店自体が時代ごとにカルチャーをクリエイトし、ストリートのなかに深度と新陳代謝をもって紛れ込む。まさに、その集積こそ東京のオリジナル。言うなればお店の数ごとにカルチャーが発動する街なのである。


 ラストのショーも終わり、代官山からタワービルと乱立する巨大液晶モニターが近づく渋谷方面へと歩きながら、このシリーズで“潜入”した数々の場所、街を思い出す。そして、先ほどまでのドラァグ・クイーンたちのショーの余韻のなかで、「自然」の対義語としての「文化」という言葉が頭によぎる。それぞれの場、店でなければ発動しない磁力が街を作り、ひいては東京という都市自体が形成される。これらを誰もが共感できる「東京の歌」という1テーマに落とし込み、歌、店、都市をリアルに体感させた湯山の鮮やかな企画力、手腕を賞賛したい。


text by 吉岡洋美 Hiromi Yoshioka

 

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